【読書記録】『ノースライト』横山秀夫 消えた依頼人を追う建築士、その裏には以外な真実が……

 

ノースライト

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    こんばんは。

 今年も終わりに近づきました。

 皆様いかがお過ごしでしょうか。

 奈良美佐です。

 

 さて、今回の読書記録は横山秀夫さん著『ノースライト』です。

 家族の崩壊と再生、友情、仕事のプライド、そして仕事への愛、様々なものが絡まった胸熱な小説でした。「週刊文春ミステリーベスト10 2019」国内部門第1位、2020年(第17回)本屋大賞 第4位の作品です。

 

<あらすじ>

 建築家の青瀬は吉田という夫婦に新しく建てる家の設計を依頼されます。「あなたの住みたい家を建ててください」。そしてその依頼は、バブルの崩壊などの影響により建築士として腐っていた青瀬に再び命を吹き込む、大きなきっかけになりました。青瀬としては満足以上の仕事ができたのです。ところが、11月に入居している筈の吉田夫妻がそこには住んでおらず、ブルーノ・タウトゆかりの椅子が残されていました。なにかあったのでは?事件にまきこまれたのでは?実は家が気に入らなかったのか?建築士としてのプライドと吉田夫妻への心配がないまぜになった気持ちで、夫妻の行方を追い始めた青瀬はそこから以外な事実にたどりつきます。

 

 この物語の一番の見どころは、もちろん吉田夫妻がなぜ、何処へ消えたのか、と言うことですが、これを書いてしまうと完全にネタバレになってしまうのでそれは出来ません。だた、とても納得のいくよい結末でした。

 

 また、物語を通して、最初は「自分としては最高の家を建てたのに、入居していないのか?」と疑念を抱くも、気のせいだとやり過ごす→ひょんなことから「入居していない」可能性が高いと思い家を見に行く→入居していない上になにかおかしい。そして電話以外にただ一つ持ち込まれた椅子それが”ブルーノ・タウト”の逸品である可能性に気づき、タウトと吉田を追っていく、と少しずつ、段階を追って「ミステリー」なっていく感じが読み手としてはたまりませんでした。

 

 そして、タウトについても興味深い記述がたくさんありました。タウトはとても有名な建築家で、でも事情があって日本ではあまり建築物は遺していませんが、その代わり沢山の家具や工芸品を残しているそうです。その中で私が一番気になったのは『タウトの日記』『日本文化私観』『日本の家屋と生活』等の著作です。日本人が忘れつつある日本の美しさ、それらを再発見し、外国人である彼が持つ感性と再構築されることによって、日本唯一の建設物である”旧日向別邸”のような名作が生まれたのではないでしょうか。

 旧日向邸の記述で、”竿竹に吊られた、五十や百ではきかない数の裸電球を改めて見上げる。それは天上の左と右に一列ずる配されていて、隣の客間に向かって伸びている。真っ直ぐではない。電球の列は多少くねっているし、よく見れば電球のコードの長さも不揃いだ。わざとそうしたのだろう。タウトの術中に嵌ったというべきか、その演出は、父に連れられ、いつかぢじじゃび「村で出かけた夏まつりの縁日を彷彿とさせた”とありました。これを読んで、全然関係のない小泉八雲を思い出しました。彼もまた日本に魅せられた外国の血を持つ人です。そして着眼点は勿論違いますが著書『日本の面影』で祭りについて言及しています。タウトについては”祭”と感じたのは青瀬の感想ですが、もしそれが間違いないのであれば、日本の祭の風景は特別で、文化の違う人からみるととても心に深く刻まれるものなのかもしれない、考えずにはいられませんでした。

[旧日向別邸]f:id:misa0524:20201221153834p:plain

 この小説の中の記者の会話によると、タウトを日本贔屓にしたきっかけは桂離宮との事です。今はコロナで閉鎖されているようですが、見学が可能になったら是非行ってみたいと思います。

 [桂離宮]

f:id:misa0524:20201221154126p:plain

 ちなみに私はタウトを知らなかったのですが、この本の中ではこのように記述されています。

第一次世界大戦後の表現主義を代表する建築家……。アルプス建築を提案したユートピアン……。大規模な集合住宅(ジードルング)の設計者……、色彩の魔術師……。類まれな画家であり作家……。思想と哲学が複雑に絡み合った建築理念は眩しいばかりで掴み所がなく、理解の緒に就くことすらかなりの時間を要しそうだった。”

 なんだかわからないけれど、とにかく凄い人だったんだな、と言うことが伝わってきます。

 

 そして、行方不明の吉田を追う中で思いもよらぬ「え、そこ繋がんの?!」という事実も明らかになります。それは、読んでのお楽しみ、ですが。

 ここに書ききれませんでしたが、親友岡嶋との友情や、岡嶋の家族、主人公の青瀬の家族、吉田の家族、等、色々な要素が絡みあい、今このブログを書いている最中も胸が熱くなるほどです。

 

最後に……

 ”建築士をしていればわかる。人が家に抱く拘りは単なる趣味や嗜好にとどまらない。個々の価値観や秘めた欲求が炙り出される。それは未来志向というより、むしろ過去に根ざしている。来歴が耳元でひそひそ囁きだすのだ。何が大切で何が大切でないか。何が許せて何が許せないか。”

 

あなたはどんな家を建てるのでしょうか。

 

by 奈良美佐