【読書記録】『スモールワールズ』一穂ミチ どこにでもいる人のそこにしかない世界

 

 久しぶりのブログ更新。

 毎日更新してる方、本当に尊敬します。

 書くときはいつも「よし、今日から毎日更新するぞ!」とやる気満々ですが、ついついさぼってします。これじゃあ、文章力も論理力も上がるはずもない。それでもなにもしないよりはましに違いない、と思い出したように時々書きます。

 

 今日の本は『スモールワールズ』。

 一穂ミチさんによる短編集です。

 本作で直木賞本屋大賞にノミネートされ一躍有名になられたようですが、これを読むと「この著者の他の作品も読んでみたい」と思わずにはいられません。

 

 この『スモールワールズ』はそれぞれ独立した6つの短編集ですが、一か所「あれ、この人ってもしかしてあの話の人かな?」と思うのもありました。私が気づいていないだけで、連作短編集なのかもしれません。

 

 ・ネオンテトラ

 主人公はモデルとして働く美和。モデルとしては賞味期限ぎりぎり、夫は浮気、子供を望むが今回も検査はネガティブ、周囲の人々の心無い言葉……。おそらく美和は自分でも気づかないぐらいゆっくりと少しずつ傷つき、ひたすらもやもやしています。そんな時に目にした激昂した中年男に責められる少年。美和は彼と少しずつ距離を近づけていきます。

 と、ここまでの紹介だと、未成年との危うい恋愛ものかな、と思いうかもしれません。実際私はそれを想像しました。ところが主題はそうではなく、結末は怖いのにある意味ハッピーエンドともとれる女性の強さと弱さを両方表現したものになっています。生きづらい世の中で、幸せになるためには場合によっては美和のようなしたたかさが必要なのかもしれませせん。

 

 ・魔王の帰還

 転校先で浮いていて友達のいない鉄二、ある日結婚した姉の真央=魔王が帰ってくるところから始まります。姉は188cmの長身だけどモデルにスカウトされたことはないけれども、プロレスからのスカウトはあったという見た目で、そのいわれようは酷いもの。”UMA””進撃の巨人””八尺様””前世はローマの剣闘士””存在自体がアトラクション”などなど。女性としては傷つくしかありません。しかし、彼女の存在こそがこの物語を明るく照らします。そして鉄二や、魔王のおかげで仲良くなれた唯一の級友奈々子の生活を照らし、未来へ進む活力を与えるのです。でもそんな魔王が帰ってきた理由はとても胸を打つものでした。絵がないから想像するしかないけど私の中の真央はとても美しい!

 私はこの短編集ではこの「魔王の帰還」と次の「ピクニック」がとても好きです。

 

 ・ピクニック

 ある家族がピクニックをするシーンから始まります。そしてある重要人物によるこののどかなピクニックに至るまでの「私たちの危機」が語られます。娘の瑛理子が孫未希を出産し、初めて赤ん坊を母である希和子に預けて夫裕之の出張先に会いに行った際、未希がなくなってしまいます。死亡診断をした医師は虐待を疑います。

 虐待を疑われる希和子や瑛理子、自分の疑いが晴れたあとも母を信じ冤罪から救おうと情報を集める瑛理子。この過程で虐待の定義のおおざっぱさ、実際に子供亡くした悲嘆にくれる間もなくそういった冤罪で苦しんだ親たちの話がでてきます。そして結末は冒頭に語られたところから想像ができるのではないでしょうか。

 しかし、真実は別のところにありました。誰もしらない。誰のせいか。すべてはなかったこと。誰も悪くない……。ぞわぞわします。哀しくて怖い。事実を受け入れられたこんなことにはならなかったかも知れない。これを読んだあなたの心には何がのこるでしょうか。

 

 ・花うた

 秋生は肩がぶつかったという理由である男性を突き飛ばし殺してしまいます。その男性は早くに両親を亡くし妹と二人きり、そしてその妹と秋生の往復書簡により時間は進んでいきます。

 正しいことや良いこと、そして幸せ。それっていったい何なのか。これを読むとそれをとても考えさせられます。主題と離れますが、相手の反応に気づかない親切は迷惑かもしれません。そしてそれは次話「愛を適量」でより明確に描かれます。

 

 ・愛を適量

 ひたすらやる気のない高校教師の愼悟。ある日家に帰るとドアの前には見知らぬ”男”。彼は愼悟の”娘”と名乗ります。確かに愼悟には離婚以来15年あっていない娘がいますが目の前の人物はどう見ても男で……。

 離婚はいまや「よくあること」ですが、なぜ愼悟は15年も娘とあっていなかったのでしょうか。そしてそれと目の前の男は深く関係しています。

 独りよがりの愛情、相手によりそわない親切は果たして親切と言えるでしょうか。むしろ迷惑になる事がおおいのではないでしょうか。だからと言って一度間違えてしまうともう取り戻せないのでしょうか。いつでもなんでも何度でも取り戻せるとは言いません。その機会を永遠に失うことも確かにあります。だからこそ、その機会を与えられたら今度こそ間違えないように行動しなければならないのです。

 …あれ、なんか泣きそうになりました。私も自分で思い出せない取り戻したい過ちがあるのかもしれません。

 

 ・式日

 一年ぶりに高校の後輩からの電話。それは彼の父親が亡くなったから葬式に参列してほしいというものだった。

 この話では珍しく登場人物の名前が一切でてきません。私の考えがあっていればそれには理由があります。そして表題『スモールワールズ』を形作っていると思うのです。

 この「後輩」の人生、「先輩」の「後輩」への反応。あなたならどうしたでしょうか。なにができたでしょうか。なにをすれば後悔しないでしょうか。

 

 ながくなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 奈良美佐