【読書記録】『推し、燃ゆ』宇佐見りん 推しが人を殴った。炎上した。私は…

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

こんにちは、奈良美佐です。

 今回の本は『推し、燃ゆ』宇佐見りんさん著です。
 2020年度下半期の芥川賞候補作です。
正直、このタイトルを見て「え、これが芥川賞?」と思いました。
いかにも今っぽい、かるーい感じのタイトルではありませんか?
 でも、読んで納得です。
 凄かったんです。

 文章はわりとすっきりしていて読みやすく、最初の数ページは「やっぱり若者だよな」(著者は現役大学生!)とちょっと上から目線な感じで見ていました。でも、読み進むにつれて自分の過ちを認めざるを得なくなりました。

 文章はすっきりしていて読みやすいんです。それは変わりません。“なのに”なのか“だから”なのか、気が付くと主人公の気持ちと同化してしまっていました。主人公とは世代も境遇も全く違います。でも、感じている息苦しさ、生き辛さ、そういったものが身体を押しつぶさんばかりに私を覆うのです。そして思いました。

 “普通”っていう概念はなんて残酷なんだろう。

 私たちは同じように見えても、まったく同じ人はいなくて、どこか他の誰かにとって普通ではない部分を持っていると思います。その普通でない部分が、その時の居場所で受け入れてもらえなかった場合、私たちはどのようにして生きていけば良いのでしょうか。
 
 主人公は恐らく、毎日の生活が息苦しくて、生き辛くて、そんなときに“推し”に関することを自分なりに落とし込むことでなんとか毎日をやり過ごしているのではないかと思いました。そして“推し”が炎上して…。

私はまだそれほど沢山の本を読んでいません。名著と言われるものもほとんど読めていません。だから間違っているかもしれません。でも、思いました。「これが圧倒的な才能ってやつなのか」と。

 物語の素晴らしさ、主人公の生き方に感動するとかいったものではなく、主人公と同化することで心を動かされてしまいました。読み終わった後は、ただ苦しくて苦しくて、泣きそうになりました。

どんな物語でもそうでしょうが、読む人によってどこが突き刺さるかはそれぞれだと思います。素晴らしい才能で書かれた素晴らしい小説だとは思いますが、辛い時に読んで救われる人もいるかもしれませんが、より辛くなってしまう人もいるかと思います。自分の問題と向き合うきっかけにもなるかもしれません。でも、心が弱り切っているときにはあまりお奨めできないかもしれません。

By 奈良美佐