読書記録『じんかん』大悪党といわれながらも信長に愛された男の人生

じんかん

じんかん

直木賞候補作。
歴史小説はほとんど読まない私だが、500ページという長さとしっかりした内容にもかかわらず、あっという間に読み終えてしまうほど面白かった。

主人公は九兵衛という男。
商人の息子。
この男が数奇な運命の下、大名になり松永久秀(松永弾正とも)と呼ばれるようになる。

そう、あの悪名高い松永久秀だ。
といっても歴史に明るくない私は彼の事を知らなかったので、読了後Wikiって世間の評判を知ったのだが……。

物語は信長に小姓頭の又九郎が久秀の謀叛を伝えるところから始まる。
又九郎はこの「よくない情報」を伝えるのに酷く怯えていたが、これを聞いた信長はむしろ上機嫌に笑い、久秀の要求を聞くとそれは「37人の家族の解放」。

37人は久秀の血の繋がった家族ではない。
部下でもない。
それは一体誰の事なのか、何のことなのか。

そして、一晩かけて又九郎に久秀の生涯を語り出し、それは驚くべき内容だった……。

この本を読んで思ったのは「本当に強い人っていうのは、こういう人の事なんだろう」

久秀は子供の頃から過酷な状況と戦ってきた。
大切なものを守り続けてきた。
その為なら、自ら「悪人」になることも厭わない。
世間では「主殺し」等とも言われているが、忠義の士である。

沢山の人との別れと出会いがあるが、本当の彼を知る人は彼を愛している。世間の人は「なんであいつに?」と首を捻るけれども。彼も、周囲の人を、部下だけでなく民をも愛し、本当に大切にしていた。

世間で「悪」と言われているのも、決して彼が不器用なわけでもないと思う。彼は彼の信じる事の為に、敢えて、その道を選んでいる。

こんな生き方ができるものか。
人はこんなに強くあれるものなのか。
憧れと尊敬の気持ちで、彼に会いたいと思った。

同時に、歴史で語られる人物像は残された資料等から推察したものを、さらに分かりやすくしたもので本当に、沢山あるその人のほんの一面なんだとも思った。

歴史に興味のある人は勿論、歴史が苦手な人にも是非読んで欲しい。そして、その後、彼の事を別の資料等で調べてみて欲しい。

By 奈良美佐