『下山事件 暗殺者たちの夏』柴田 哲孝 初代国鉄総裁の謎の死、自殺か他殺か。実話を元にした小説

下山事件 暗殺者たちの夏

下山事件 暗殺者たちの夏

恥ずかしながら「戦後最大の謎」ともいわれるこの事件を私は知らなかった。
本小説は実際にあった初代国鉄総裁の死の謎を描いたもので、できる限り事実に近く、登場人物の名前も実名に近い物を使用して描いたという。ただ、小説でしか描けないところがある。

それは、結局今でも謎のままの部分だ。
それを著者の想像力や推理力を駆使しして補い一つの物語として書き上げている。

ページ数は約600、なかなかの長編だ。
だが、一日で読み切ってしまった。
それは、事件が興味深いからというのももちろん、著者の筆力によるところも大きいだろう。
全編を通して目の前で起きているかのようなリアルさがあった。
特に下山氏が失踪してからの捜査の様子、一課と二課の攻防等は息もつかせぬ緊迫感だ。
個人的には法医学が絡むシーンがとても面白かった。

元々この事件を知らなかった私には、読んでいる最中はどこがフィクションでどこがノンフィクションなのかは全く分からなかった。しかし、読み終わったあとには何となく想像がついた。そして更にインターネットで検索をして更に理解が深まった。相次いで発生した「国鉄三大ミステリー事件」の三鷹事件松川事件についても描かれている。

この本はフィクションだが、著者である柴田哲孝氏はノンフィクション『下山事件 最後の証言』も出版されている。是非これも手に取りたい。

簡単に下山事件の概要を簡単にざっくりまとめると、
・1949年、日本を占領する連合国軍(米を中心)指揮下、高インフレに喘ぐ経済の立て直しを図り、その一環として緊縮財政策を実施する。
・6月1日:同日施行された「行政機関職員定員法」に基づき10万人近い人員整理を求められる国鉄の初代総裁に下山定則が就任する。
・7月5日:出勤する為午前8時20分に自宅をでる。あちこち寄った後、三越に車を停め運転手にに「5分で戻る」と言い残し、そのまま消息を絶つ。
・7月6日:午前0時30分過ぎに轢断された遺体が発見される。失踪前の状況、遺体発見現場の状況、法医学的見地等から、自殺とも他殺とも断定できない多くの謎があった。
・12月30日:自殺か他殺か断定できないまま「下山事件特別捜査本部」は解散。
・1946年7月6日:殺人事件である場合の公訴時効が成立。

自殺説・他殺説、それぞれを主張するものにはそれぞれの合理的と思われる理由があった。自殺と断定するには納得のいかない部分が多いが他殺とするにも決めてに欠ける。

個人的には小説を読んだせいか、Wikipediaやら他のページで調べた後も他殺説が有力な気がするけれど、70年以上たった今、進歩した科学で真相を解き明かすことができるのか、又、できたとしてもやろうとしてくれる人間がいるのか、もしくは時間が経ちすぎてすでにそれは無理な事なのか、どちらにしてもなくなった下山氏には失礼かもしれないが非常に興味深い事件である。