『おいしくて泣くとき』森沢明夫 優しい奇跡の物語
以前なんとなく図書館で手にした森沢さんの作品『ぷくぷく』が良かったので、再び手にした森沢さん作品。
小3で母親を亡くした食堂の息子「心也」、心也の幼なじみで勉強はできるけど家にも学校にも居場所のない少女「夕花」、台風が近づいている時期に店にトラックが激突したけれど修繕費が出せなくて困っているカフェレストランのママさん「ゆり子」、主にこの3人の目線で物語は進められて行く。
それぞれに問題を抱えているけれど、中でも夕花の状況は本当に辛い。そんな中でも健気な彼女に心を痛めずにはいられない。
下記は引用。
〝マイナスに傾きそうになった心をいったん静止させるには、深呼吸がいちばん効果的なのだ。そして、心が静止しているあいだに、わたしは自分の頭のなこを「楽しいこと」に置き換える。些細なことでも下らないことでも、楽しければ何だっていい。思考がプラスになりさえすれば、後からついてくる心も自然とプラスに変換されるのだから。〝
大人の私だって頭では分かってるけど出来てないよ。それを中学生の少女が実践しているなんて、そうしなければ耐えられない程、現実が苦しいんだろう。
大雨の時も、心也が「やむかな」というので「やんでほしい?」と聞き、「やまないと家に帰れねえじゃん。夕花、傘持ってないんだろ?」と答えられた時も
〝帰りたい家がある人の言葉は、いつだって優しいー。〝
「ええよな、家が帰りたい場所で、けっ!」と卑屈にならずに心也の優しさに目を向ける。なんてええ子なんや…。
ちょっと夕花にスポットライトをあててしまったけれども心也と夕花、心也と隣のクラスの不良石村のやり取りでは、なんとも中学生らしくて微笑ましい、読んでいて思わず頬が弛む場面がいくつもあった。
あと、心也のお父さんがかなりイケメン(顔は知らんけど)で、特に心に響いたのがこのセリフ。
"「人の幸せってのは学歴や収入で決まるんじゃなくて、むしろ『自分の意思で判断しながら生きているかどうか』に左右されるんだって」"
元々はお母さんの言葉らしいけど。
しかも、学術的に証明されてるらしいけど。
この言葉をあの状況、あのタイミングで言うのが格好いい。
因みに心也の父の食堂では貧しい子供達に食事を無償提供する「こども飯」を、ゆり子のカフェレストランでも同じ「こども食堂」を展開している。2つの共通点は一見それだけに見える。それがどのように繋がるのか、それをずっと考えながら読んでいた。
すると……
まさかの感動の結末!
森沢さんの作品を、読んだのはまだ2作目だけど、どうしてこの人はこんなにも人を包み込むような優しさに溢れた物語を描けるのだろうか、と感嘆せずにはいられない。
まだ『ぷくぷく』の感想をあげていないので、また時間を見つけて書いてみたい。
写真はバター醤油焼きうどん。
作品の中で何度かでてきます。